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IT Columns 【文字コードで世界に出る〜さらば!文字化け〜】
混乱をもたらした1983年のJIS改定
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 前回は、JIS C 6226すなわち「JIS漢字」の誕生の話をしました。
  「JIS漢字」は1978年に世界ではじめて漢字を収録した公式の文字コードとして開発されたものでした。工業製品の標準を定めるJIS規格は定期的に見直される決まりとなっていることから、JIS漢字も1983年に1回目の改定が行われ、その後、1990年、1997年と三度に渡る改定が行われて、現在に至っています。
  規格の改定自体は技術の進歩などに伴ってより現実に合うように行われるものですが、JIS漢字の1983年の改定は多くの混乱をもたらしました。今回は、「新JIS・旧JIS問題」とも呼ばれる、この1983年のJIS改定の話を取り上げましょう。

区名がパソコンで表示できない!

 東京は下町に「葛飾区(かつしかく)」という区があります。寅さんで有名になった柴又帝釈天のある区ですが、実はこの区の正式名称は「葛飾区」ではありません。
 下に同区の公式サイトのWebページを掲げましたが、その左上の区名表示をじっくりとご覧になってください。「葛飾」の「葛」字の左下の部分が「ヒ」ではなく、「人」+「」になっているかと思います(図1)。

【図1】
葛飾区の公式区名は……

 葛飾区にお住まいの方であれば、区から届く文書や区役所・学校などの看板などでご存じだと思いますが、同区では区を表現するときに上掲の「人」+「」の字形を使うのを公式としています。

 そもそも「葛」は「葛粉(くずこ)」や「葛湯(くずゆ)」などの「葛(くず)」をあらわす漢字で、漢和辞典を見ると、この2つの字形のどちらかが見出しとして掲げられていて、もう片方がその異体字といった説明で載っています。「異体字」とは起源を同じにする漢字で、漢字の長い歴史の中で字の形が変わってしまった漢字を指します。歴史的により古い字形を「旧字体」、より新しい字形を「新字体」と呼ぶこともあります。

 しかし、前掲の葛飾区のWebページをもう一度よ〜く見ると、「葛飾区」の表記となっているところもあります(図2)。

【図2】
Webページ上では「葛飾区」の表示が一般的

 これはどういうことでしょうか?
 同Webページを開いてドラッグしてみるとわかりますが、左上の区名表示は画像として配置されているのに対して、「葛飾区」の表示になっている個所はすべて配置されています。

 私たちがパソコン上で利用している「MS明朝」や「MSゴシック」などの日本語フォントではこの漢字が「葛」の字形でデザインされていて、葛飾区が正式名称だとする方の字形ではデザインされていません。そのため、葛飾区では苦肉の策として、Webページのタイトル部分では画像を用いて同区の正式名称を表現し、Webページ本文では「葛」字で済ませているのです。

多くの漢字の字形を変更した1983年の改訂

 「MS明朝」や「MSゴシック」などの日本語フォントがこの漢字を「葛」形で収録しているのは、もちろんマイクロソフト社が勝手に行ったことではありません。Windowsに標準添付している日本語フォントはJIS漢字に準拠しています。

 最初に開発された1978年のJIS漢字の規格書を見ると、この漢字は葛飾区が正式名称とする「人」+「」の字形で掲載されています。しかし、1983年に改訂された規格書を見ると、現行の「ヒ」の字形、すなわち「葛」へと変わっています。

 1983年の改訂時に変えられたのは、この漢字だけではありません。
 まず、「堯」「槇」「遙」「瑤」の4字はそれぞれ「尭」「槙」「遥」「揺」といった簡略化された字体に置き換えられたうえで、従来第一水準にあった「堯」「槇」「遙」「瑤」の4字はそれぞれの字形のまま、第二水準の末尾に追加されました(図3)。

【図3】
1978年規格→1983年規格で簡略化された漢字

 また、従来、第一水準にあった「鰺」「鶯」「竈」「壺」などはそれぞれ第二水準に「鯵」「鴬」「竃」「壷」といった簡略化された字体の漢字が収録されていましたが、1983年の改訂時にこれら22組の漢字について第一水準と第二水準の入れ替えが行われました(図4)。

【図4】
1978年規格→1983年規格で入れ替えられた漢字

 さらに規格書に掲載された300字近い漢字の字形が変更されました(図5)。今回取り上げた葛飾区の「葛」字もその結果として「産まれた」漢字の1つだったのです。

【図5】
1978年規格→1983年規格で字形が変わった漢字

 JIS C 6226は6300字ほどの漢字を収録していますので、そのおよそ5パーセントにあたる漢字の字形が一気に変えられたワケですが、その数があまりに多いことから、1978年規格に掲載された字形を「旧JIS」、1983年規格に掲載された字形を「新JIS」と呼んで区別する場合もあります。

 数が多いだけでなく、その中には上掲の葛飾区のように地名や人名など、固有名詞に関わる漢字も含まれていたことから、さまざまな混乱をもたらしました。
 今日のように、Windowsパソコン一色となる前、日本国内で圧倒的な市場シェアを持っていたのは日本電気(NEC)のPC-9801シリーズでしたが、このPC-9801は最初のJIS漢字すなわち1978年の規格書に掲載された字形に準拠した漢字ROMを搭載していましたので、PC-9801を使う限りは例えば葛飾区の「葛」字なども同区の望む字形で表示・印刷することができました。しかし、間もなく登場したPC-9801の互換機やサードパーティ製のプリンタなどではより新しい1983年またはその後の1990年の改定版規格書に準拠する機種が多かったため、「PC-9801で作成した一太郎文書を互換機で開くと、一部の漢字の字形が変わってしまった」「モニタ上と印刷結果で一部の漢字の字形が異なる」といったトラブルを引き起こしたのです。当時、一般紙でも取り上げられた「旧JIS・新JIS問題」です。

 では、1983年のJIS改訂において、なぜ、これほど大規模な字形の変更が行われたのでしょうか? その謎解きは―――次回に。

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