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IT Columns 【文字コードで世界に出る〜さらば!文字化け〜】
なぜJIS漢字は1983年の改定で自体を変えたのか?
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 さて、前回、これまでに三度行われたJIS漢字の改定の中でも最初の改定、すなわち、1983年の改定において、葛飾区の「葛」字をはじめとする多くの漢字の字形が変えられたため、世の中に混乱をもたらしたことをご紹介しました。
  後に「改悪」とか「愚行」などとも評される変更がなぜ行われたのでしょうか? 20年以上も昔の話ですので、今となっては詳しいことはわかりませんが、その背景を探ってみましょう。

国の公用漢字を定める「常用漢字」

 コンピュータなどの情報機器・通信機器で使える漢字を規定しているのはJIS漢字ですが、法律や条令などの国・地方公共団体が発行する公用文あるいは新聞などの公的性格の強い文書で使える漢字を規定しているのは「常用漢字」です。

 「常用漢字」は1981年に内閣告示として発表された漢字使用の基準です。
 その目的や適用範囲について、同告示には「一般の社会生活において現代の国語を書き表すための漢字使用の目安」と記されているのみですが、その前書きにより詳しく「この表は、法令、公用文書、新聞、雑誌、放送など、一般の社会生活において、現代の国語を書き表す場合の漢字使用の目安を示すもの」と記されています(図1)。
 これはけっして、私たちが報告書や論文、ブログなどを書く際に常用漢字以外を使ってはいけないということではありません。前書きにも「科学、技術、芸術その他の各種専門分野や個々人の表記にまで及ぼそうとするものではない」と明記されています。あくまでも公的な文書にのみ適用されるルールです。ただし、平易さ・わかりやすさを良しとするビジネス文書においても常用漢字を目安とするように指導されることは一般的ですので、常用漢字は民間においても広く定着していると言ってよいのではないでしょうか。

【図1】
常用漢字表の「前書き」

 「常用漢字表」には1,945字の漢字が記載されています(図2)。

 この表をざっと眺めると、確かに日常生活においてよく使う漢字が網羅されているように思えますが、ちょっと意外なことに大阪の「阪」、埼玉の「埼」など、誰もが知っている地名で使われている漢字が含まれていません。都道府県だけに限っても、「阪」「埼」のほかに、「奈」「媛」「岡」「栃」「梨」「熊」「茨」「阜」「鹿」の計11字が入っていません。
 前掲の「前書き」にも「この表は、固有名詞を対象とするものではない」とされている通り、固有名詞は常用漢字の適用対象外とされたため、もっぱら人名や地名でのみ使われる漢字は常用漢字に入っていないのです。

【図2】
常用漢字表の先頭部分

常用漢字の前身は「当用漢字」

 広く定着したように見える「常用漢字」ですが、これには前身があります。戦後直後の1946年(昭和21年)に制定された「当用漢字」です(図3)。

【図3】
当用漢字の告示

 この「当用漢字」は、「多数の漢字の習得は国民の負担が大きすぎ、戦後、日本が民主主義国家として再生するための障害となる」という考えのもと、「法令・公用文書・新聞・雑誌および一般社会で」使用できる漢字の範囲を規定したもので、前述の常用漢字と比べると、制限色の濃いものでした。

 この当用漢字に対しては、文芸家などからの反発・反論もあり、また、その一方で告示から20数年たって、ある程度の普及をみたことから、95字を追加したうえで、制限色を弱めて「目安」としたものが前述の「常用漢字」だったのです。

当用漢字・常用漢字とJIS漢字

 さて、情報機器で使える漢字を定めているのはJIS漢字ですが、国の公用漢字が当用漢字や常用漢字として定められている以上、これに従う必要があります。
 両者の関係を年表でまとめると、以下のようになります(図4)。

【図4】
当用漢字・常用漢字とJIS漢字の関係

 まず、最初のJIS漢字すなわち1978年に開発されたJIS X 6226においては、当用漢字表に掲げられている1,850字がすべて収録されています。
 その直後に、常用漢字が告示されたワケですが、幸いなことに、常用漢字であらたに追加された95字はすべてJIS漢字に含まれていましたので、慌てて漢字を追加する必要はありませんでした。

 しかし、問題は常用漢字表に掲げられていない漢字、すなわち「表外漢字」の扱いでした。前回、葛飾区の「葛」字が最初のJIS漢字では右下の部分が「人」+「」という字形だったのに、1983年の改定において「ヒ」の字形に変わった旨を取り上げましたが、この「葛」字は常用漢字表にはない表外漢字です。一方、常用漢字表にはサンズイの「渇」字が載っていて、「ヒ」の字形が「現代の通用字体」、「人」+「」の字形は「明治以来行われてきた活字の字体」とされていますが、このルールを同じパーツを持つ「葛」字にも適用すべきか否かという問題です。

 1981年(昭和54年)に出された常用漢字表の中間答申の前文及び1983年(昭和56年)の答申前文においては「常用漢字表に掲げていない漢字の字体に対して、新たに、表内の漢字の字体に準じた整理を及ぼすかどうかの問題については、当面、特定の方向を示さず、各分野における慎重な検討にまつこととした」として、とくべつに方針を定めませんでした。しかし、朝日新聞などは、従来、「區」+「鳥」の字形だった「鴎」字を常用漢字の「区」に準じて「鴎」字形に改めるなど、表外漢字に対しても積極的に常用漢字に準じた字体を採用しました(これらの漢字は「朝日文字」などと称せらえました)。
 こういった中、JIS漢字も、1983年の改定において、「鴎」や「葛」など、多くの漢字が常用漢字の字体に準じた字形に変更されたのです。今となっては「拙速だったのでは」という感じは否めませんが、当時のこういった情勢にも一因があったのではないでしょうか。

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