まず、最初のJIS漢字すなわち1978年に開発されたJIS X 6226においては、当用漢字表に掲げられている1,850字がすべて収録されています。
その直後に、常用漢字が告示されたワケですが、幸いなことに、常用漢字であらたに追加された95字はすべてJIS漢字に含まれていましたので、慌てて漢字を追加する必要はありませんでした。
しかし、問題は常用漢字表に掲げられていない漢字、すなわち「表外漢字」の扱いでした。前回、葛飾区の「葛」字が最初のJIS漢字では右下の部分が「人」+「」という字形だったのに、1983年の改定において「ヒ」の字形に変わった旨を取り上げましたが、この「葛」字は常用漢字表にはない表外漢字です。一方、常用漢字表にはサンズイの「渇」字が載っていて、「ヒ」の字形が「現代の通用字体」、「人」+「」の字形は「明治以来行われてきた活字の字体」とされていますが、このルールを同じパーツを持つ「葛」字にも適用すべきか否かという問題です。
1981年(昭和54年)に出された常用漢字表の中間答申の前文及び1983年(昭和56年)の答申前文においては「常用漢字表に掲げていない漢字の字体に対して、新たに、表内の漢字の字体に準じた整理を及ぼすかどうかの問題については、当面、特定の方向を示さず、各分野における慎重な検討にまつこととした」として、とくべつに方針を定めませんでした。しかし、朝日新聞などは、従来、「區」+「鳥」の字形だった「鴎」字を常用漢字の「区」に準じて「鴎」字形に改めるなど、表外漢字に対しても積極的に常用漢字に準じた字体を採用しました(これらの漢字は「朝日文字」などと称せらえました)。
こういった中、JIS漢字も、1983年の改定において、「鴎」や「葛」など、多くの漢字が常用漢字の字体に準じた字形に変更されたのです。今となっては「拙速だったのでは」という感じは否めませんが、当時のこういった情勢にも一因があったのではないでしょうか。